自然釉とは|薪の灰が生む、人が塗らない釉薬

自然釉(しぜんゆう)とは、人の手で釉薬を塗らずに生まれる釉です。長時間の薪窯焼成のなかで、燃えた薪の灰が窯の中を舞い、器の表面に降り積もり、高温で溶けてガラス質の釉となります。
灰が多くかかった部分は濃く、少ない部分は淡く。オリーブ緑から琥珀色まで、一つの器のなかでさまざまに発色します。備前・伊賀・信楽・越前・丹波といった六古窯の「景色」の核心をなし、二つとして同じものは生まれません。
釉薬をかけずに高温で焼き締める焼き締めの器に、窯そのものがかける釉。それが自然釉です。
どうやって灰がガラスになるのか
薪窯では、赤松などの薪を数日から十数日燃やし続けます。燃えた灰は上昇気流に乗って窯のなかを舞い、器の上面や炎の当たる側に降り積もっていきます。
木灰にはカリウムやカルシウムが含まれており、これは釉薬の材料そのものです。1,200℃を超える温度でこの灰が溶けると、器の表面でガラス質に変わる。人が調合して塗った釉薬とまったく同じことが、窯のなかで自然に起きています。
だから自然釉は、器の全面には掛かりません。灰が降りやすい面だけが緑に光り、反対側は素地のまま。この「掛かった面」と「掛からなかった面」の落差が、自然釉の器の見どころです。
自然釉の代表的な景色
- 胡麻(ごま) 灰が薄く点々と降り、溶けて胡麻を振ったように見えるもの。備前の代表的な景色です。
- ビードロ 灰が厚く積もり、溶けてガラスのように鮮やかな緑に流れ溜まったもの。伊賀・信楽で珍重されます。
- 焦げ 灰に埋もれた部分が炭化し、黒く焦げたもの。緑や橙との対比が強く出ます。
- 火色(ひいろ) 炎が直接当たった面が、橙から赤褐色に焼けたもの。灰の緑と隣り合うと美しい。
自然釉と人工釉の違い
| 項目 | 自然釉 | 人工の釉薬 |
|---|---|---|
| かけ方 | 窯のなかで灰が降り積もる | 浸す・流す・吹き付ける |
| かかる範囲 | 灰が降る面だけ。片面のことも多い | 狙った範囲に均一にかかる |
| 再現性 | 二度と同じにならない | 調合と温度で再現できる |
| 焼成時間 | 数日〜十数日の薪窯 | 電気・ガス窯で1〜2日 |
焼き手すら予測できない「炎と灰の偶然」がもたらす表情こそ、自然釉最大の魅力です。一期一会という言葉が、これほど当てはまる技法もありません。
関連記事・用語
関連する用語
- ビードロとは|備前に流れる、ガラス質の緑
- 焼き締めとは|釉薬を使わず、土を極限まで焼く
- 穴窯とは|日本最古の薪窯の内側
- 登り窯とは|斜面をのぼる、連なる部屋
- 緋襷とは|備前に走る、藁が残した赤い線
- 目止めのやり方|使い始めに必ずやること
- やきもの用語集|技法・産地・道具のことば
くわしく知る
- 景色とは|器の表面を風景として読む
- 備前焼とは|釉薬を一切使わない焼きもの
- 信楽焼とは|土が光る、1,200年続く焼きもの
- 伊賀焼とは|炎と灰が生む、荒々しい土の美
- 和食器の手入れ|洗い方・保管・シミ対策
窯がかけた釉を見る
灰が降った面の緑と、炎が当たった面の橙。自然釉は、写真の角度が変わるだけで別の器に見えます。Nokazeでは焼き締めの器をご紹介しています。
焼き締めの器を見るFAQ
自然釉は人工の釉薬と何が違うのですか?
自然釉の器は普段の食器として安全に使えますか?
自然釉が片面にしかかかっていないのですが、不良品ですか?
この記事の器を買う
焼き締め
43点 すべて見る日本の器をはじめから知りたい方へ。歴史、陶器と磁器の違い、素材、手入れまでを一本にまとめています。→ 日本の器・完全ガイド|はじめての一枚から歴史まで