京焼・清水焼。千年の都が育んだ陶磁器の歴史

京焼(きょうやき)・清水焼(きよみずやき)。京都の「京」「清水」と、誰もが聞いたことがある名前が含まれた名前です。これらは、どちらもその名の通り、千年の都・京都で生まれた陶磁器を指す言葉であり、日本の宮廷文化・茶道・絵画が深く交わった場所だからこそ生まれた、「雅(みやび)」の美学を特徴とする焼き物です。

備前焼が「火と土の偶然性」を大切にするのとは対照的に、京焼が大切にするのは「人の意志による精緻な仕事」です。作家が思い描いた意匠を、精確な筆づかいで器に表現する。器はキャンバスであり、工芸品であり、文学の結晶でもある。これが京焼の世界観です。


京焼・清水焼の歴史

京都に陶磁器の生産が始まったのは、794年に都が置かれた平安時代にまでさかのぼります。京都ならではの碁盤の目の街並みができたのもこの頃です。しかしそのころからの主流は、中国・朝鮮からの輸入品や他産地の作品が主流でした。

京焼が独自の産地として確立するのは、16世紀頃から。京都=お茶をイメージする方も多いと思いますが、まさに茶道文化の高まりが、京都に精緻な茶道具の需要をもたらし、腕のある陶工が都に集まるようになりました。

野々村仁清—京焼・清水焼の父

京焼の礎を築いた最大の名工が、野々村仁清(のむら にんせい、17世紀)です。

仁清は丹波国(京都北西部)の出身とされ、かの有名な京都の仁和寺(にんなじ)門前に御室窯(おむろがま)を開きました。彼の業績は、それまで素朴だった京都の陶器に「上絵付け(色絵)」という革命的な技法をもたらしたことです。

素焼きした器の上に透明釉をかけて本焼きし、その後さらに赤・緑・黄・金・黒など多彩な絵の具で精緻な文様を描き、再び上絵窯(約800℃)で焼き付ける。この多重焼成の技法により、仁清は深みのある色彩と洗練された装飾を実現しました。

仁清の遺作は現在、国宝・重要文化財に指定されるものが多く、世界の主要美術館が所蔵しています。その一点の価値は現代でも億円単位に達します。

当時は、茶道をきっかけに侘び寂びの哲学から、自然との対話を重視し、「火と土の偶然性」を大切にする備前焼や信楽焼が台頭していた頃ですが、京焼はそれとは逆に、人為的に作られた美しさを絵付けという技法で体現したのです。

尾形乾山—絵と器の融合

仁清の最も重要な弟子が、尾形乾山(おがた けんざん、1663〜1743)です。乾山は京都の著名な装束商・尾形家の出身で、兄は琳派の大画家・尾形光琳(おがた こうりん)。

乾山の陶芸は、仁清の精緻さに加えて、より自由で絵画的な表現を展開しました。兄・光琳との合作(器の形を乾山が、絵付けを光琳が担当)は特に有名で、紅白梅・波・月・松など琳派の意匠が器の上で生き生きと展開されました。

乾山の器は「絵画を食卓に持ち込んだ」とも評されます。工芸と絵画の境界を溶かした革新性は、現代の目で見てもなお新鮮です。

その後、17世紀になると、東山山麓地域で茶の湯の流行とともに発展し、清水寺の参道である五条坂周辺で生産が盛んになりました。これが、その土地の通り、「清水焼」と呼ばれる所以です。現在では京都で生産される陶磁器全般を指して「京焼・清水焼」と呼ぶのが一般的です。


京焼・清水焼の特徴—「雅」を形にする技法

装飾技法の多様さ

京焼が誇るのは、その装飾技法の豊富さです。

上絵付け(うわえつけ)・色絵・錦手(にしきで)
本焼きした器の上に、複数の色の絵の具で文様を描き、再度低温焼成する技法。赤・緑・黄・金・青など多彩な色が重なることで、絵画のような豊かな表現が生まれます。仁清・乾山が完成させた京焼の代表的技法。

染付(そめつけ)
釉薬の下にコバルトブルーの顔料で文様を描いてから焼成する技法。白磁に映える青の美しさが特徴で、有田焼の染付と並んで親しまれています。

金彩・銀彩(きんさい・ぎんさい)
格式ある器に金・銀を用いる技法。懐石料理の器や茶道具に使われることが多い。金彩を施した器は特に贈答品として高く評価されます。

辰砂(しんしゃ)
銅分を含む釉薬を還元焼成することで生まれる鮮やかな赤。中国陶磁から学んだ技法ですが、京焼の作家がそれを独自に発展させました。

文様の題材——日本の古典文学が器に宿る

京焼・清水焼の器に描かれる文様は、単なる装飾ではありません。日本の古典文学・自然観・季節感が凝縮されています。

四季の花鳥:桜(春)・朝顔(夏)・紅葉(秋)・雪輪(冬)。季節を映した文様は、使う時期を選ぶ楽しさを与えます。

和歌の情景:百人一首・万葉集・源氏物語など、日本の古典文学から引用したイメージ。文学的教養がある人ほど深く楽しめる器です。

琳派の意匠:尾形光琳・本阿弥光悦が確立した琳派のモチーフ(波・梅・鶴・籬に菊など)は、現代も京焼の文様として広く使われています。

仏教文様・幾何学模様:唐草・七宝・麻の葉など、日本の伝統的な幾何学文様も京焼の定番です。

その中で、京都という街だからこそ、選りすぐりの作家が集まり、歴史の中で創作を続けてきました。そのため、京焼・清水焼は、他の産地の自然を活かすというより、土の持ち味を活かすというより、人々の技術を尽くして理想の形を作る「技術の融合」が特徴。


京焼・清水焼と茶道

京都は茶道文化の発祥・発展の地です。千利休・武野紹鴎・古田織部。茶道の歴史を作った人物のほとんどが京都を活動の拠点としており、多くの茶人が京焼・清水焼の作家を支援してきました。その中で生まれたのが、茶道の器の頂点とも言って過言ではない、楽焼です。他にも様々な焼き物が発展してきました。

楽焼(らくやき)
千利休が主導し、陶工・長次郎が京都で制作した手びねりの茶碗。楽焼は京焼の一形態として現在も楽家(十五代・楽吉左衛門)が一点ずつ制作を続けています。

粟田焼(あわたやき)
東山・粟田口で作られた京焼の一種。精細な貫入釉(ひびが入った透明釉)が特徴で、江戸時代に輸出陶磁器「薩摩焼」の一形態としても流通しました。

仁清の水指・茶入
野々村仁清が作った水指(みずさし)や茶入(ちゃいれ)は、茶道の世界で最高峰の評価を受けます。現存する作品は国宝・重要文化財に指定されているものも多い。

著名な現代京焼作家による茶碗もまた、茶道具として最高水準の評価を受けます。


京都で京焼・清水焼を見る・購入する

京都で京焼に触れるための最良の場所が、清水寺へと続く清水坂・五条坂周辺です。この一帯には江戸時代から続く窯元・ギャラリーが立ち並び、現代作家の工房も点在しています。

ただし、清水坂のメインストリートは観光客向けの量産品も多く混在しています。本格的な作品を求めるなら、表通りを外れた小路の専門ギャラリーや、作家の工房を直接訪ねることをおすすめします。

清水三年坂美術館(京都):明治・大正期の京都工芸品を専門に収集・展示する美術館。七宝・蒔絵・彫刻などと並んで、近代の名工による京焼・清水焼の名品が収蔵されています。購入前に本物の水準を目で学ぶのに最適です。

五条坂・清水坂の窯元通り:清水寺参道沿いに窯元・ギャラリーが集中しています。ただし観光客向けの量産品も多く混在するため、作家名と窯元情報を確認しながら選ぶことが重要です。

陶磁器展示会・京都工芸祭:京都では年に数回、陶磁器専門の展示即売会が開催されます。作家と直接話しながら作品を選べる機会です。

京都にあるNokaze店舗でも、京都で活躍する多数の作家の作品を取り扱いしています。オンラインでは感じられない質感も直接感じることができますので、京都にお越しの際はぜひお立ち寄りください。


京焼・清水焼を日常に取り入れる

京焼・清水焼は「見る工芸品」ではなく「使う器」です。千年の都の美意識を食卓に取り入れるために、どのような器から始めるかを考えてみましょう。

日常使いの湯呑み・カップ

京焼・清水焼の入門として最もおすすめなのが、湯呑み(ゆのみ)です。お手頃な価格帯で、手描きの絵付けが入った本格的な京焼の器が手に入ります。毎日のお茶の時間に使うことで、季節の文様を日常で感じるひとときが生まれます。季節によって異なる文様の湯呑み・カップを使うのも風情があって良いでしょう。

懐石料理に合う小皿・向付

京焼の魅力が最も発揮されるのは、料理を盛ったときです。京都の懐石料理の文化と深く結びついた京焼は、少量の料理を美しく見せるための計算がなされた形と文様を持っています。

一点の向付皿(日本料理店で刺身や小鉢に利用される器を)を手に入れ、和食の前菜を盛り付けてみてください器と料理が会話する体験が生まれます。

贈り物としての京焼

京焼は日本でも最も格式の高い贈り物のひとつです。「京都」というブランド、精緻な絵付け、格式ある産地の歴史。これらが合わさって、京焼・清水焼の器は特別な贈答品としての地位を持ちます。婚礼・記念日・目上の方への贈り物として、京焼・清水焼は最適な選択です。

器は、単なる日用品や食卓の道具ではありません。日々の生活のなかで使い込むほどに少しずつ表情を変え、贈り主の想いとともに思い出を刻んでいく、極めて特別なギフトです。言葉では伝えきれない思いを、器という形に託してみませんか。

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現代の京都で活躍する陶芸家

今日の京焼には、仁清・乾山の伝統を守りながら、現代的な感性を加えた多様な作家が活躍しています。

近年、精緻な上絵付けの伝統を守りながらも、モダンなデザイン感覚を器に取り込んだ若い世代の作家が増えています。インターネットを通じて海外のコレクターからも注目されており、「伝統工芸品」ではなく「現代アート」として京焼を捉えるファン層が広がっています。

いしいもけ 石井 菜摘

京都市内にて作陶。「いしいもけ」の名前でも活動し、粉引の器を中心に、気取らない日常づかいのうつわを制作しています。白いうわぐすりの下から土の色がほのかに透ける粉引は、素朴でやさしい表情が魅力。シンプルな形ながら、縁のラインや高台のバランスに遊び心があり、何を盛っても不思議とさまになる器です。また、絵付師・川邑藍子さんとのコラボレーションでは、古美術の世界を思わせる絵柄が加わり、物語性のある器に。京都という土地の空気感をまとった、やわらかく親しみのある作品世界が広がっています。

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絵付師・川邑藍子

京都を拠点に活動する絵付師です。京焼・清水焼の伝統的な上絵付け技法を深く受け継ぎながら、現代のライフスタイルにそっと寄り添う、瑞々しく洗練された器を生み出しています。

卓越した細密な筆づかいと、余白を活かしたモダンな色彩美にあります。四季折々の草花や自然の情景をどこか詩的に表現した絵柄は、上品な「雅」の薫りを残しつつ、和洋を問わず現代の食卓を華やかに彩ります。京都の伝統工芸の枠に留まらない、現代アートのような感性を宿した器です。

  • 石井 菜摘 × 川邑藍子の作品を見る

TATA pottery studio

陶芸の形作りを担う田中大輝さんと、うつわに絵付けを施す「考える筆」田辺桂さんの2人のタッグにより生まれたTATA pottery studioの可愛い作品たち。「用の美」を追求された日常に使いやすい田中大輝さんの器の形に、上品でいて、どこかレトロで可愛らしい田辺桂さんの絵が描かれた、日常を彩ってくれる器たちです。うつわの形もリムにフリルが施された、輪花皿やぼてっとした形がかわいいマグカップなど、「用の美」を生かしながらも、食卓を華やかにする工夫が施されています。くま、パンダ、可愛い少女とご自身が好きな絵を選ぶ楽しみも感じていただけます。

  • TATA pottery studioの作品を見る

盧 易詩

香港出身。京都へ移住後、明確な四季の移ろいや自然の美しさに深く感動し、その息吹を映した作陶を続ける陶芸家です。正式な学校ではなく独学で一途に土と向き合い、先人たちの努力や記憶が詰まった「用の美」を追求しています。

朝の優しい光や夜の静寂の中で形を成す作陶は、彼女にとって今しかない一期一会の瞬間。自然の深みや複雑な質感を表現するため、すべての作品に5種類以上の釉薬を重ね掛けしています。夏の夕日を眺めながら施される色あいは独自のリズムを持ち、料理や生花、お茶など、暮らしを彩るすべての美と呼吸を合わせながら、日常に寄り添う温かな器を届けています。

  • 盧 易詩の作品を見る


京焼に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 「京焼」と「清水焼」に違いはあるのでしょうか?

現在はどちらも京都で生産される陶磁器全般を指し、「京焼・清水焼」と一括りで呼ばれるのが一般的です。歴史的には、東山山麓地域や清水寺の参道である五条坂周辺で茶の湯の流行とともに発展した焼き物が土地の名にちなんで「清水焼」と呼ばれ、京都で焼かれる多彩な陶磁器の総称である「京焼」の一部として広く親しまれるようになりました。

Q2. 備前焼や信楽焼などの他の焼き物と、京焼・清水焼の最大の違いは何ですか?

他の産地が土の持ち味や「火と土の偶然性」を大切にするのに対し、京焼・清水焼が最も重んじるのは「人の意志による精緻な仕事」です。京都は日本各地から選りすぐりの職人や優れた原料が集まる技術の融合地であったため、卓越した筆づかいで器をキャンバスに見立て、理想の形と絵柄を人為的に作り上げる「雅(みやび)」の美学が特徴です。

Q3. 器に描かれている文様にはどのような意味や題材があるのですか?

京焼・清水焼の文様には、日本の古典文学や豊かな自然観が凝縮されています。桜や紅葉といった「四季の花鳥」、源氏物語や百人一首をイメージした「和歌の情景」、さらに波や鶴といった「琳派の意匠」や吉兆を表す幾何学模様など、贈り相手への願いや教養、季節のおもてなしを表現する物語が込められています。

日本の雅のこもった京焼・清水焼を贈り物として選ぶとき

日本の贈答文化において、京焼・清水焼は格別の存在感を持ちます。結婚祝い・還暦・叙勲・茶道のお稽古の節目。人生の特別な瞬間に、手描き絵付けの京焼が選ばれるのには理由があります。

まず、京焼・清水焼の絵付けには「物語と願い」が込められています。鶴・松・梅は長寿と繁栄の象徴、四季の花は自然への感謝、源氏物語の意匠は教養と格調を表します。贈る相手の好みや、祝う場面の意味に合わせて文様を選ぶことが、日本の贈答の奥深さです。

特別な贈り物としても、京焼・清水焼は「日本の精神文化の結晶」として海外の方に強く印象づける一品です。小さな豆皿一枚でも、その背景にある歴史・技法・物語を添えることで、単なる雑貨を超えた価値になります。

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