日本の器のお手入れ方法。長く大切に使うために

日本の器は使うほどに、深くなる

祖母が大切に使い続けた飯碗があります。縁に小さな欠けがあり、内側には長年のお茶の色が薄く染みついている。それでも——というより、だからこそ——その器は美しい。

日本の陶磁器には「一生もの」という概念があります。大量生産の食器は消耗品として扱われますが、手で作られた陶器や磁器は、適切に使い、適切に手入れすれば、一人の人間の一生を超えて受け継がれていく存在です。

ただし、日本の陶磁器は機械で作られた食器と異なる「性質」を持っています。吸水性がある、熱に弱い、釉薬に繊細な点がある。これらを知らずに扱うと、素晴らしい唯一無二の作品を早々に傷めてしまうことになります。

この記事では、日本の陶磁器の種類別に正しいお手入れ方法を詳しく解説します。大切な作品を、ずっと大切に、長く使い続けるために。


使う前に知っておくべき、素材別の基本性質

お手入れ方法は、器の素材によって大きく異なります。まず自分の器がどの素材かを把握することが重要です。

陶器(土もの)の性質

陶器は、土を原料に比較的低温(約1,100〜1,300℃)で焼いたものです。特徴は、

吸水性がある:陶器の表面には細かな気孔があり、水分・油分・酸・アルコールなどを吸収します。これは使い込むほどに器が変化する「育ち」の基盤でもありますが、扱い方を誤ると汚れやカビの原因にもなります。

食洗機は基本的にNG:急激な温度変化(食洗機の高温水+乾燥サイクル)は、陶器にストレスを与え、釉薬のひび(貫入)が広がったり、素地が割れるリスクがあります。近年では食洗機が可能な耐久性の高い陶器も増えてますが、作家ごとに使えるかどうかが変わり、使えないものも多くあります。

電子レンジ使用に注意:釉薬に金彩・銀彩が施されているものや、金継ぎが施されているものは電子レンジ使用不可。金彩なしの陶器であれば、短時間の使用は可能なケースも多いですが、長時間の加熱は避けましょう。

代表産地備前焼信楽焼、萩焼、丹波立杭焼、益子焼、越前焼など

磁器(石もの)の性質

磁器は、陶石(カオリンなどを含む石)を原料に高温(約1,300〜1,400℃)で焼いたものです。特徴は、

吸水性がほぼない:表面が密で気孔がないため、液体を吸収しません。汚れがつきにくく、落としやすい。

食洗機対応のものが多い:金彩・銀彩がなければ食洗機使用可能なものが多いですが、製品の説明書を確認してください。

電子レンジ対応のものが多い:金属装飾がない磁器は電子レンジOKのものが多い。

代表産地:有田焼、九谷焼、波佐見焼、砥部焼など

素材ごとの特徴に関しては、下記の記事にまとめておりますので、その違いを楽しんでください。


初めて使う前のひと手間の「目止め(めどめ)」

素材の違いを理解したところで、まずは陶器のお手入れに関して、説明していきます。陶器を初めて使う前に、日本では伝統的に「目止め」という処理を行います。

目止めとは

目止めとは、陶器の微細な気孔を事前にふさいでおく処理のことです。シミやすい素材である陶器だからこそ、目止めをすることで、事前に吸水させ、その後の汚れの吸水を防ぐことができます。

・使い始めのシミ・色移りを防ぐ
・カビや臭いの原因となる汚れの侵入を防ぐ
・器を長持ちさせる

目止めの方法

小麦粉を溶かした水、お米の研ぎ汁を使う方法

  1. 小麦粉を溶かした水、お米を研いだ後のとぎ汁(白く濁ったもの)を鍋に入れる
  2. 器を入れ、とぎ汁が器全体をかぶるくらいにする
  3. 弱火〜中火でゆっくり加熱し、沸騰直前で火を止める
  4. そのまま冷ますまで放置(30分〜1時間)
  5. 取り出して流水で洗い、乾燥させる

小麦粉、米のデンプンが気孔を塞ぐ役割を果たします。

目止めが必要な器・不要な器

目止めは、萩焼、信楽焼、丹波立杭焼など、陶器全般、行える方が良いです。一方で磁器は行う必要なく、また吸水性が低い、焼き締めという技法で作られている備前焼などに着いても、目止めをする必要がない場合が多いです。


陶磁器の素材別日常のお手入れ

ではここから、陶器、磁器を長く利用するためのお手入れのコツに関して、説明します。

陶器のお手入れ

食後すぐに洗う
上述した目止めをしたとしても、食べ物の油分や酸が長時間触れると、陶器に染み込む可能性があります。食後はできるだけ早く洗いましょう。

ぬるま湯と柔らかいスポンジで洗う
洗剤は基本的に使わないか、使っても中性洗剤を少量にとどめます(特に朱泥急須・萩焼など)。洗剤成分が気孔に残ると次回使用時に出てくる場合があり、注意が必要です。

洗った後は十分乾燥させる
乾燥が不十分なまま収納するとカビの原因に。タオルで水分を拭き取った後、逆さにして十分に乾かします。

収納する際は傷つかないように工夫
陶器はその表面のざらつきが大きい場合、陶器同士がぶつかった際に表面の傷になってしまうこともあります。そのため、陶器を重ねて収納する場合は、間に柔らかい布やペーパータオルを挟んで、傷を防ぎます。

磁器のお手入れ

磁器は陶器に比べて格段に扱いやすいですが、注意点もあります。

食洗機使用時の注意
金彩・銀彩・プラチナ彩装飾のある磁器は食洗機で剥がれる可能性があります。手洗いが安全。

薄作りの磁器は衝撃に注意
吸水性がないため水に強い一方、薄い磁器は衝撃に割れやすい。積み重ねる際は慎重に。

漂白剤は避ける
磁器の白さを守るために漂白剤を使いたくなりますが、釉薬や絵付け顔料を傷める可能性があるため、基本的に使用は避けた方が良いでしょう。

鉄器(南部鉄器など)のお手入れ

ここで、陶磁器とは違いますが、よく日本に来た方のお土産にもなる南部鉄器のお手入れ方法に関しても、開設します。

南部鉄器とは

南部鉄器(なんぶてっき)は、日本の岩手県(盛岡市、奥州市)で約400年前から作られている、伝統的な鋳物(いもの)の鉄器のことです。
その独特の重厚感と、使い込むほどに味が出る質実剛健な美しさは、日本国内だけでなく欧米でも「Nanbu Ironware」として非常に高く評価されています。

南部鉄器の大きな特徴は、下記の3点です。

優れた保温性と熱伝導
鉄の塊であるため、一度温まると冷めにくく、食材に均一に熱を伝えます。ステーキを焼けば外はカリッと中はジューシーに、お湯を沸かせば驚くほどまろやかになります。

鉄分補給ができる
調理や湯沸かしの際に、体内に吸収されやすい「二価鉄」が溶け出します。貧血気味の方に優しい道具としても知られています。

驚異的な寿命
「親から子、子から孫へ」と言われるほど丈夫です。しっかり手入れをすれば100年以上使い続けることができます。

なぜ「南部」と呼ぶのか?

江戸時代、現在の岩手県北部を治めていた「南部藩」の殿様が、京都から茶釜職人を招いて作らせたのが始まりです。地元の良質な鉄資源を活かしたこの産業は、藩の重要な特産品として保護・発展してきました。

現代では、フランスをはじめとする海外からの要望で、伝統的な「黒」だけでなく、赤、青、ゴールドなどのカラフルな南部鉄器が作られるようになりました。これがきっかけで、伝統工芸品でありながら現代のキッチンに馴染むモダンなアイテムとして、世界中にファンが広がっています。

南部鉄器のケアの方法

南部鉄器の急須・茶器は、陶磁器とは異なる特別なケアが必要です。

絶対に洗剤で洗わない
鉄器は洗剤禁止。お湯でゆすぐだけにします。

完全に乾燥させる
使用後は逆さに置いて完全に乾燥。湿気が残ると錆の原因になります。

内側を拭かない
内側をタオルで拭くと、保護皮膜(酸化被膜)が剥がれる原因になります。

外側の錆は軽くお湯で落とす
外側に錆が出た場合は、お湯を少量かけてタワシで軽く落とします。強くこすりすぎないこと。


陶磁器のよくあるトラブルと対処法

カビが発生した場合

乾燥が不十分で収納した陶器にカビが発生することがあります。その場合は、

  1. 器全体をぬるま湯で洗い、表面のカビを落とす
  2. 重曹を水で溶いたペースト状のものを塗り、30分置く
  3. やわらかいブラシで優しくこすり落とす
  4. 流水でよく洗い、完全乾燥させる

カビが内部まで染み込んでしまった場合は、「目止め」を再度行って気孔を塞ぐのが有効です。

茶渋・汚れが染み込んだ場合

吸水性の高い陶器は茶渋や汚れが染み込む場合もあります。その場合は、下記の方法で対処します。

  1. 重曹水(水200mlに重曹小さじ1)に器を浸け、1〜2時間置く
  2. 柔らかいスポンジで優しくこする
  3. よく洗い流す

ただし萩焼の場合、お茶の色が染み込むことは「七化け」として歓迎される現象です。無理に除去しない良さもあるでしょう。

陶磁器に欠け・ひびが入った場合

小さな欠けが入った場合でも、その器は「終わった」ではありません。修復して、長く利用することも、日本の陶磁器の魅力です。

金継ぎ(きんつぎ)という日本伝統の修繕技法があります。欠けた箇所を漆で接着し、金粉で仕上げる方法で、修繕後の器はむしろより美しい piece として生まれ変わります。欠けを恥とせず、歴史の一部として受け入れる。これも日本の侘び寂び文化の深さです。

大きな割れや多数の欠けは、地元のクラフト店や陶芸教室で金継ぎを依頼するか、自分で学ぶキットを購入することもできます。

釉薬の色が変わった場合

長年使うと釉薬の色が変化することがあります。

育ちの変化(歓迎すべきもの):萩焼の七化け、備前焼の表情の変化、常滑朱泥のまろやかさの増加、これらは意図的な経年変化です。

劣化の変化(対処すべきもの):釉薬が剥がれる、金彩が消える、急激な色の変化、これらは使用方法や保管方法に問題がある場合があります。食洗機・電子レンジの使用を見直しましょう。

器が育つのも、日本の器の魅力です。器が育つ魅力については、下記の記事にまとめておりますので、ぜひ参考にしてみてください。


長く使い続けるための収納術

素材別に分けて収納する

陶器と磁器は、できれば分けて収納するのが理想です。磁器の方が硬いため、陶器と重ねると陶器が傷つく場合があります。

重ねる場合は「保護材」を挟む

器を重ねる場合は、間に薄い和紙・フェルト・シリコンマットなどを挟みます。これにより、器同士の傷を防ぎ、通気性も確保できます。

湿気の少ない場所に保管

陶器は湿気に注意。キッチン下の湿気の多い場所より、棚の上部や乾燥した場所に保管しましょう。

使わない場合も定期的に出して使う

長期間使わない場合でも、数ヶ月に一度は出して洗い、乾燥させましょう。長期間放置すると、湿気を吸い込んだ状態が続き、カビや臭いの原因になります。


海外での日本の陶磁器の保管

日本から持ち帰ったり、輸送して届いた作品を大切に扱うためのアドバイスです。

気候の違いへの対応:日本と比べて乾燥した気候(ヨーロッパ・北米の多くの地域)では、陶器が急激に乾燥する場合があります。最初の数週間は、毎日使いながら器に新しい環境に慣れさせることをお勧めします。

硬水への対応:ヨーロッパの多くの地域は硬水(カルシウム・マグネシウム分が多い)。硬水で洗うと器の内側に白い水垢が付着しやすくなります。レモン水または酢水で定期的にすすぐと、水垢を落とせます。

器と共に生きるということ

日本の陶磁器のお手入れは、難しくありません。基本は「使ったら早めに洗い、しっかり乾かす」。それだけです。少しの知識と、少しの丁寧さが、一つの作品を何十年も美しく保ちます。

そして使い込まれた器には、機械生産品には絶対に生まれない「時間の美しさ」が宿ります。七化けした萩焼の茶碗、まろやかになった備前の湯呑み金継ぎで修繕された磁器の皿、これらは損なわれた器ではなく、豊かな歴史を持つあなただけの作品となります。

大切な器との長い時間を、ここから始めましょう。


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