片口
片口とは、器の一方だけに注ぎ口がついた鉢形の器です。「片」=一方、「口」=注ぎ口。名前がそのまま形を説明しています。徳利のように首が細く閉じた形ではなく、上が大きく開いているため、中の酒が見え、手も届きます。
この「開いていること」が片口の本質です。蓋を外す動作がいらず、器のなかで少量の酒を冷やしたり温めたりでき、注いでいる酒の色がそのまま見える。容量は100〜300ml程度、日本酒でいえば1〜2合。一度に注ぎ分けるのにちょうどよい大きさです。
今でこそ酒器として知られていますが、片口はもともと醤油・酢・出汁・油を移し替えるための台所道具でした。いまも日用の道具として使い続けている家庭は少なくありません。台所と食卓の両方を自由に行き来できる、めずらしい器です。

片口の使い方
冷酒を注ぐ。 片口に酒を移し、氷水を張った鉢に片口ごとひたす。あるいは片口自体をあらかじめ冷やしておく。器が開いているぶん、飲むうちに酒は少しずつ温度を上げ、香りの表情も移り変わります。これは防ぐべき欠点ではなく、片口で飲むことの面白さです。
食卓に置く。 揃いのぐい呑みと一緒に卓に出し、互いに注ぎ合う。隣の人に注ぎ、注がれる——この所作こそが、酒を「ひとりで飲むもの」から「分かち合うもの」に変えます。
酒以外に使う。 和え物の小鉢に、出汁や醤油の注器に、あるいは酒肴を盛る器に。一輪挿しとして花を生ける方もいます。この形が酒だけのものである理由は、どこにもありません。抹茶ボウルとしてご利用いただいている方もいらっしゃいます。
片口を素材で選ぶ
素材は、酒の味そのものと器のふるまいの両方を変えます。
炻器・焼締。 備前焼、信楽焼、伊賀焼の片口は、ざらりと温かい肌をもち、酒の角をやわらげます。土の細かな気孔が口当たりをまろやかにする。そして使うほどに肌の色が深まっていく。10年後に手にする片口は、買った日の片口と同じ表情ではありません。
磁器。 有田焼や波佐見焼の片口は吸水せず、手にひんやりと硬い。吟醸酒の澄んだ香りと切れをそのまま保ちます。白い地は酒のかすかな色を映し出し、これは焼締では見えないもの。洗いやすく、目止めも不要です。
ガラス。 完全に透明で、夏の酒席や、酒そのものを見せたいときに。素材由来の味がなく、冷えるのも早い。
漆器。 軽く、唇にやわらかく、温度に寛容。数は多くありませんが、漆の片口が卓に一つあると場の格が変わります。
片口の手入れ
無釉や粗い土の片口は、使い始めに目止めをしておくと、染みや匂いの移りを抑えられます。酒を注ぐ前に一度水にくぐらせるのも有効です——濡れた器は吸い込みません。使ったあとは早めに洗い、しっかり乾かしてからしまう。深さのある形は、平皿より湿気が残りやすいためです。
磁器とガラスの片口には、こうした手入れは要りません。他の器と同じように洗って乾かすだけで十分です。
お手入れの仕方に関しては、下記の記事も併せてご覧ください。