しのぎ(鎬)
日本の陶磁器の表面装飾技法において、「しのぎ(鎬)」ほど静かな存在感を放つものは多くありません。絵付けも派手な色彩もなく、刻まれた面取りの陰影と、削り出された溝に流れる釉薬の濃淡だけで表現されます。
本記事では、しのぎの概要、作られ方、愛される理由、そして「Nokaze」で取り扱っている日常の食卓を彩る2つの窯元・作家をご紹介します。

しのぎ(鎬)の意味
しのぎの語源は、日本刀の「しのぎ筋(刃の側面にある盛り上がった稜線)」に由来します。うつわにおける「しのぎ」とは、表面を削って幾重もの筋と凹凸を作り、立体的な削り目(面取り)で包み込む技法を指します。
絵付けのように上から描くのではなく、素地そのものを削り出すため、模様が粘器の一部として一体化しているのが特徴です。
粘土が乾燥して固めの「革(レザーハード)」の状態になったときに、職人はカンナやヘラなどの工具を使って表面を削り落とします。薄く粘土を削ぎ落とすことで、削り跡の横にひとつずつ稜線(山)が残ります。この作業を繰り返すことで、連続したリズミカルな山と谷が形成されます。
しのぎの魅力が際立つのは焼き上がりの瞬間です。施された釉薬は高くなった稜線部分では薄く流れ、削られた溝部分には溜まるため、単色の釉薬であっても濃淡の美しいグラデーションが生まれます。青磁やマットホワイトの釉薬を施すと、光の差し込む角度によって表情を変え、シンプルな器に静かな躍動感と奥行きを与えます。
削る速さや加減、職人の手の動きがダイレクトに現れるため、ふたつとして同じ表情の器は存在しません。
しのぎが愛される理由
1. 単色釉薬から生まれる奥行き
削り出された線に釉薬が流れて溜まることで、一色の釉薬が多様な表情へと変化します。
2. 心地よい手触り
指先に触れる凸凹とした立体感があり、カップや鉢を手にとる心地よさを高めます。
3. 使い込むほどに育つ味わい
長年使い込むことで釉薬が馴染んで柔らかい光沢を帯びていき、日本の陶器ならではの「器を育てる」楽しみを味わえます。
4. すべてが一点もの
手仕事ならではのリズムや個性が、刻まれた一本一本の溝に宿ります。

Nokazeが届ける2つの「しのぎ」窯元・作家

山本雅則(信楽焼)
祖父から受け継いだ伝統の窯で制作を行う山本雅則氏は、信楽焼の伝統を背景に、緻密で味わい深い手削りのしのぎ作品を手掛けています。くっきりと際立つ美しい稜線は、リム皿、スープカップ、カレー皿、湯呑み、マグカップ、小鉢、酒器など多岐にわたり、毎日の食卓で手や料理にやさしく寄り添います。

樹の音工房・佐藤茜(会津本郷焼)

福島県・会津の「樹の音工房(きのおとこうぼう)」で作陶する佐藤茜氏は、落ち着いたマットホワイトやマットブラックの仕上がりで、やわらかく均一なしのぎを削り出しています。会津本郷焼の伝統に根ざしながら、「日常で使いたくなるうつわ」をテーマに制作。絵付けの作品もあれば、モダンで穏やかな表情のしのぎの作品も。個性的な作品たちは、どんな食卓にも自然と馴染みます。
