藻掛とは|海藻を巻いて焼く、常滑の火色

藻掛(もがけ)とは、成形した器に乾かした海藻を巻きつけて焼き、藻が触れていた跡を赤い線として残す装飾です。愛知県の常滑で生まれた、この産地ならではの技法です。
筆で描くのでも、釉薬でつくるのでもありません。巻いた藻は窯のなかで燃えて消えますが、藻に含まれる塩分が土の表面と反応し、触れていた部分だけが赤く発色するとされています。どこに藻が当たったかがそのまま模様になるため、二つとして同じ器にはなりません。
釉薬をかけずに焼く器の表面に現れる景色のひとつです。
「巻いて焼く」と聞いて、備前の緋襷(ひだすき)を思い浮かべた方もいると思います。巻くものも土も産地も、そして生まれた経緯も違う、別の技法です。下で並べて比べます。
海藻の塩分が、土を赤くする
藻掛の工程そのものは単純です。轆轤などで成形して乾かした器に、乾燥させた海藻を巻きつける。そのまま窯に詰めて焼く。それだけです。
窯のなかで起きているのは、燃焼ではなく反応です。海藻は高温で燃え尽きてしまいますが、藻が含んでいた塩分が、接していた土の表面にだけ残って反応し、そこが赤く発色すると説明されています。白泥のように白く焼き上がる土に巻けば、白い地に赤い線がくっきりと出ます。常滑の赤い土に巻いた器では、地よりもさらに濃い赤褐色の線として現れます。
線の表情を決めるのは、巻き方です。縦に一本流すのか、斜めに何周も巻くのか、束ねて置くのか。藻の太さや重なり方によって、線は細く走ったり、枝分かれして網のように広がったりします。焼き上がるまで、どう出るかは作り手にもわかりません。
天保年間、白い土との出会いから
常滑市立のとこなめ陶の森と、日本遺産「日本六古窯」の公式サイトは、藻掛のはじまりをそろって江戸時代後期に置いています。天保年間(1830〜1844年)、二代伊奈長三(いなちょうざ)が板山で白く焼き上がる「白泥土」を見つけ、その土に乾燥させた海藻を巻いて焼く技法を開発したとされています。
当初の呼び名は「火色焼(ひいろやき)」でした。白い地肌と、海藻の塩分が赤く発色する火色との対比こそが、この技法の見どころだったからです。とこなめ陶の森の解説では、のちに「藻掛け」という呼び名が広まり、「火色焼」は使われなくなったと説明されています。
巻かれた海藻の種類については、とこなめ陶の森が「コアマモ(甘藻の一種)」と記しています。ただし資料によってアマモ、ジュズモなど記述が分かれており、一種類に確定できるものではありません。
藻掛は、いまも常滑焼を代表する技法として扱われています。愛知県が伝統的工芸品「常滑焼」を解説する公式ページでも、急須製作で行われる仕上げのひとつとして「藻掛焼」が挙げられています。
緋襷との違い
藻掛と混同されやすいのが、備前焼の緋襷です。どちらも有機物を器に巻きつけて焼き、その成分で土を赤く発色させるという点では同じ仕組みで、写真だけを見ると見分けがつかないこともあります。
違うのは、巻くものと、下にある土と、産地。そして、どう生まれたかです。
| 見るところ | 藻掛 | 緋襷 |
|---|---|---|
| 巻くもの | 乾かした海藻。常滑ではコアマモとされる | 稲藁 |
| 産地 | 常滑(愛知) | 備前(岡山) |
| 下の土 | 白く焼ける白泥や、赤く焼ける常滑の土 | 鉄分の多い備前の土 |
| はじまり | 天保年間に、模様を出すために考え出された | 窯詰めで器がくっつくのを防ぐ藁から生まれた |
| 線の出方 | 藻の形のまま、枝分かれして絡む | 藁の形のまま、襷のようにまっすぐ走る |
いちばんわかりやすいのは線の形です。稲藁は一本ずつまっすぐなので、緋襷の線も直線的に交差します。海藻は枝分かれした形をしているので、藻掛の線は細かく分かれて絡み合います。器を手に取って線をたどれば、どちらの技法かはすぐにわかります。
生まれ方も対照的です。備前市の公式サイトは、緋襷を、器同士が癒着しないよう間に藁をはさんだ窯詰めの工夫から生まれたものと説明しています。実用のための手当てが景色に変わったのが緋襷で、はじめから模様を狙って考え出されたのが藻掛です。
発色の説明も、確からしさが違います。緋襷は、備前焼陶友会が藁のアルカリ分と粘土の鉄分の反応と説明しており、材料科学の研究でも赤の正体が酸化鉄であることが調べられています。いっぽう藻掛は、公式の資料でも「海藻の塩分による」という説明にとどまり、機構を確かめた研究は見当たりません。
焼き締め・自然釉との関係
藻掛は、それ自体が釉薬の名前ではありません。釉薬をかけずに焼く器の上に現れる景色のひとつです。常滑は釉薬を用いない焼き締めを特徴とする産地で、地肌がむき出しだからこそ、巻いた藻の成分が土と直接反応します。同じ器を説明するときに似た言葉が並ぶので、次のように整理しておくと迷いません。
- 焼き締め 釉薬をかけずに高温で焼き上げる焼き方そのもの。焼き締めは器のつくり方を指す
- 自然釉 薪の灰が器に降り積もり、熱で溶けてガラス質になったもの。自然釉は釉なので、表面に艶と厚みが出る
- 藻掛 巻いた藻の成分で土が赤く発色したもの。釉ではないので、艶も厚みも生まれない
- 景色 焼き締めの器に現れたこれらの表情をまとめて呼ぶ言葉。景色は読み解き方の話
指でなぞると違いがはっきりします。自然釉はガラスの膜として盛り上がっていますが、藻掛の線は土の表面のままで、色だけが変わっています。自然釉が窯まかせの偶然なのに対して、藻掛は巻いた場所に模様が出るという意味で、作り手が半分だけ手を入れられる景色です。窯のなかの条件で色が動く点は窯変と共通しています。
常滑の藻掛を見る

Nokazeで扱っている藻掛の器は、常滑の山田勇太郎氏によるものです。1982年に常滑の製陶業の家に生まれ、県立常滑高校のセラミックアーツ科、大同大学での建築を経て、2017年にとこなめ陶の森陶芸研究所を修了。家業とは別に、茶道具の作家として独立しました。
伝統的な常滑焼の技法を用い、山藻を巻きつけて焼成することで独特の模様が生まれた作品たちは、軽さと薄さ、そして藻掛の美しさが特徴的です。
常滑は日本六古窯のひとつで、中世から途切れずに焼きものを焼いてきた産地です。藻掛が生まれた江戸時代後期は、煎茶の流行とともに常滑で急須づくりが始まった時期にあたります。土と炎だけで仕上げるという常滑の考え方は、常滑急須にも通じています。
藻掛の器を選ぶ
藻掛は一点ずつ模様が違うので、産地や作り手で決めたあとは、線の走り方で選ぶことになります。見るところは三つです。
- 線の多さ 一本だけすっと通るものは静かに、何本も絡むものは器の表情が強くなる
- 線が入る位置 口縁から落ちるか、胴を横切るか、肩だけに集まるか。手に持ったときいちばん見える面に線があるかを確かめる
- 地の色との差 白い地なら赤がはっきり出る。朱や黒の地なら、濃淡の差として静かに見える
釉薬をかけていない陶器なので、使うほどに色が落ち着き、艶が出てきます。この変化は経年美化と呼ばれ、藻掛の線もまた、年月とともに地になじんでいきます。使い始めの手当てや洗い方は、器を届けた作り手の案内に従ってください。
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Nokaze で扱っている器
藻が残した線をたどる
藻掛は、どこに藻が当たったかで線の走り方が変わります。同じ作り手が同じ窯で焼いても、二つとして同じ器は出てきません。Nokazeでは常滑の山田勇太郎氏の作品をご紹介しています。線の絡み方に注目して、作品をお選びください。
山田勇太郎の器を見るFAQ
藻掛とはどんな技法ですか?
藻掛と備前の緋襷は何が違いますか?
藻掛の器はどう選べばよいですか?
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