作家 樋口真紀|鶴亀からシーラカンスまで、躍動感が特徴の絵付けの器

灰色の壁面に並べた樋口真紀氏の絵付け皿。提灯、鶴と柿、うさぎ、パンダ、象。藍と赤で描き分けられている

棚に並んだ樋口真紀氏の器を順に見ていくと、途中で一度、手が止まります。

鶴亀。松竹梅。梅。唐子。ここまでは、和食器の絵付けとして見慣れた吉祥の文様です。ところがその隣に、シーラカンスがいます。さらに進むと、カラス。パンダ。虎に竹。おかめ。渡来人の宴会図。

ひとりの作り手の棚とは思えないほど、モチーフが散らばっています。けれどこれは迷いではありません。本人が「型にはまらないようデザインを統一していない」と、はっきり言い切っている作風です。

樋口氏の器はコレクションにまとめています。同じ形でも絵が一枚ずつ違うので、写真を見比べてみてください。

すべて一点物である、という前提

樋口氏の作品は、すべて一点物です。本人はその理由を、こう説明しています。

工房は産地の窯元でもなければ、スタッフの揃ったスタジオでもない。轆轤も、絵付けも、施釉も、焼成も、全ての工程をひとりで行っている。だから世の中に二つとして同じものがないのは、必然なのかもしれないと。

これは謙遜のようでいて、実は制作の核心です。絵を描く人と形をつくる人が同じだから、生地の様子を見てから筆の入れ方を決められる。本人の言葉では「練り出す生地の雰囲気によって筆の入れ方を変える工夫をして描いている」。分業ではこの往復ができません。

受け継いだのは、様式ではなく態度だった

樋口氏は本橋勤氏に師事し、その二年後に独立しています。本人の説明によれば、本橋氏は人間国宝・田村耕一のただひとりの弟子でした。

系譜としては、鉄絵の流れに連なります。ところが樋口氏の器を見ても、師の様式をそのままなぞった作品は見当たりません。受け継いだのは技法の型ではなく、器に向かう態度のほうだったようです。

本人はこう振り返っています。師の言葉を折に触れて反芻しているうちに、思いがけず自分の作陶スタイルがあることに気づいた、と。探して見つけたのではなく、気づいたら、そこにあった。統一しないという作風は、そうやって輪郭を持ったのだと思います。

藍一色で大きくタコを描いた輪花皿。筆の勢いがそのまま残り、下に同じ絵の皿が二枚重なる

吉祥文と、シーラカンス

いま並んでいる器の絵柄を、性格で分けるとこうなります。

系統 モチーフ 合う場面
吉祥文 鶴亀、松竹梅、梅、唐子 正月、祝いの席。文様の意味がそのまま挨拶になる
生き物 うさぎ、鶏、虎に竹、カラス、パンダ 普段の食卓。一枚あると場が和む
意表を突くもの シーラカンス、おかめ、渡来人宴会図 来客の日。話がそこから始まる
植物 桃、葡萄 果物や菓子を盛る。絵と中身が響き合う

面白いのは、この幅がありながら、並べても喧嘩しないことです。理由は絵の描き方にあります。輪郭を強く取って塗り分けるのではなく、余白を大きく残して一息で描く。だから絵柄が違っても、器としての静けさが揃っています。

釉の下に藍で描く技法は染付、焼き上がった釉の上に色を置く技法は上絵付けです。樋口氏は生地に応じて描き分けるので、同じうさぎでも一枚ずつ線の勢いが違います。

オーバル鉢に描かれたシーラカンス。鉄絵の輪郭に藍を重ね、鱗が細い線で埋められている

普段使いでありつつ、どこかに力強さを

本人が掲げているのは「普段使いでありつつ、どこかに力強さやはなやかさが見える作品づくりをしたい」という一文です。

実際、サイズの構成が完全に普段使いです。5寸皿(約15cm)、6寸皿(約20cm)、7寸皿(約21cm)、豆皿、長皿、オーバル鉢、湯呑み、マグカップ、フリーカップ、そして急須。特別な日のための器ではなく、明日の朝も使える器の並びです。

  • 5寸皿 取り皿として。うさぎや梅なら、和菓子をのせるとちょうどよく収まります
  • 7寸皿 主菜に。渡来人宴会図のような絵は、余白に料理を置くと絵が生きます
  • 長皿 焼き魚、刺身、一品を横長に。桃や唐子の絵が細長い画面に合います
  • オーバル鉢 サラダや煮物。シーラカンスの28cmは、食卓の中心になります
  • 湯呑み・マグ 毎朝手に取るので、絵柄が生活に馴染んでいきます

器種ごとの選び方は和食器の基本に、サイズの換算は寸とcmの換算表にまとめました。

店頭に並ぶ樋口真紀氏の器。立てかけた象の絵の皿、うさぎの皿の重ね、とんぼを描いた楕円皿。奥はユーカリを挿したガラスの花瓶

一枚ずつ違う、という選び方

全工程をひとりで行っているため、同じ「5寸皿(うさぎ)」でも、うさぎの向きも線の太さも一枚ずつ違います。だからこの作り手の器は、種類で選ぶのではなく、一枚を選ぶことになります。

絵付けの器全般については絵付け・染付に、動物のモチーフが好きな方は動物モチーフのうつわにも近い器があります。

樋口氏の器は一点物です。同じ絵柄が再入荷することはあっても、まったく同じ一枚は二度と並びません。気になるものがあれば樋口 真紀コレクションで見比べて確認してください。

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轆轤から絵付け、施釉、焼成まで、すべてをひとりで。鶴亀もシーラカンスも同じ棚に並ぶ、統一しないという作風です。同じ絵柄でも一枚ずつ線が違います。

樋口 真紀の器を見る

FAQ

樋口真紀とはどのような作家ですか
樋口真紀(ひぐち・まき)は、東京を拠点に絵付けを中心に作陶する作家です。轆轤から絵付け、施釉、焼成までをひとりで手掛けます。同じ形の器に一点ずつ異なる文様を描くため、まったく同じものは二つとありません。形が共通しているので、文様が違っても複数を並べたときに食卓でまとまって見えます。
同じ絵柄を選べますか
同じ絵柄が再入荷することはありますが、まったく同じ一枚は二度と並びません。樋口真紀氏は轆轤・絵付け・施釉・焼成の全工程をひとりで行い、生地の様子に応じて筆の入れ方を変えています。同じ「5寸皿(うさぎ)」でも、うさぎの向きも線の太さも一枚ずつ違います。
絵柄がいろいろありますが、並べても大丈夫ですか
並べて大丈夫です。鶴亀や松竹梅のような吉祥文から、シーラカンスやパンダまで幅がありますが、どの絵も輪郭を強く取らず、余白を大きく残して描かれています。そのため絵柄が違っても、器としての静けさが揃います。
どのサイズから選べばよいですか
毎日使うなら5寸皿(約15cm)が使いやすいです。取り皿にも和菓子にもちょうどよく、絵柄も選びやすいサイズです。主菜を盛るなら7寸皿(約21cm)。食卓の中心になる一枚が欲しい場合は、オーバル鉢が適しています。

日本の器をはじめから知りたい方へ。歴史、陶器と磁器の違い、素材、手入れまでを一本にまとめています。→ 日本の器・完全ガイド|はじめての一枚から歴史まで

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