九谷焼とは|日本でもっとも大胆な絵付け

木のテーブルに散らして並べた九谷焼の皿と碗。黄地に白鷺を描いた輪花皿、朱一色の牡丹、幾何学の色紙文など、五彩の絵付けが面を埋め尽くしている

世界が驚嘆した「九谷の赤」

1867年、パリ万国博覧会。日本のブースに展示された色鮮やかな磁器に、ヨーロッパの陶磁器コレクターたちは目を見張りました。深い緑、燃えるような赤、鮮烈な黄。器の表面を埋め尽くす大胆な絵付けは、当時のヨーロッパ人が「ジャポニスム」として熱狂した日本の工芸の象徴そのものでした。それが九谷焼(くたにやき)です。

石川県の山あい、加賀の地で生まれたこの磁器は、350年以上の歴史を持ちながら、今なお世界中のコレクターを魅了し続けています。古九谷と呼ばれる初期の作品は世界の名だたるオークションで高値がつき、現代の九谷作家の作品は、ニューヨーク・ロンドン・パリのギャラリーで展示されています。

なぜ九谷焼は、これほどまでに人の心を動かすのか。その色彩の秘密、歴史の重なり、そして現代作家たちの挑戦。この記事で、その全貌に迫ります。

九谷焼の誕生

最初の窯。謎に包まれた「古九谷」

九谷焼の歴史は、1655年頃に始まります。石川県の山中地方、現在の加賀市九谷地区に窯が開かれたのが最初とされています。六古窯が1,000年以上の歴史を持つなかでは、比較的新しい産地になります。

初期の九谷焼は古九谷(こくたに)と呼ばれ、九谷五彩と呼ばれる深い緑、黄、紫、紺青、赤の色彩を用い、豪快で絵画的なデザインを持っていました。しかし古九谷は約50年間生産されて突然姿を消します。窯が閉じられた理由も定かではなく、その謎の多さが九谷焼のロマンをさらに深めています。現存する古九谷の作品は極めて希少で、国内外の美術館や個人コレクターに大切に保管されています。

古九谷の特徴は、五彩と呼ばれる緑・黄・紫・紺青・赤の5色を使った大胆な絵付けです。余白を色で埋め尽くす「塗り埋め技法」、大振りな植物・鳥・人物のモチーフ。これらは中国の明時代の磁器から影響を受けつつも、独自の日本的解釈で昇華された様式です。

日本地図に石川県の九谷をピンクのピンで示した図。有田・萩・備前・信楽・常滑・益子の位置も併記されている

再興九谷。複数の様式が競う時代

古九谷が途絶えてから約100年後の1800年代初頭(江戸後期)、九谷焼は復活を遂げます(再興九谷)。加賀藩が主導した春日山窯や若杉窯を皮切りに、次々と個性豊かな窯が開かれ、それぞれが独自のスタイルを確立しました。現代の九谷焼が他の産地に比べて驚くほど多様なスタイルを持っているのは、この時代の切磋琢磨がベースにあるためです。

これらの様式は現代にも受け継がれており、九谷焼の多様性の源になっています。「九谷焼」という一つの名前の下に、これほど異なるスタイルが共存している工芸は、日本の伝統工芸の中でも非常に珍しく、大きな魅力となっています。

九谷焼の現在

九谷焼の産地・石川県南部(加賀市、能美市)には、現在も200以上の窯元と絵付け工房が存在し、日本の陶磁器産地の中でも規模の大きい部類に入ります。

現代では、若い作家たちが伝統技法を独自の感性で再解釈した一点ものを生み出し、国内外の展覧会で高い評価を得ています。

九谷焼を特別にする「五彩」の世界

九谷焼はなぜこれほど鮮やかなのか

九谷焼の最大の特徴は、その圧倒的な色彩です。他の日本の陶磁器産地が「侘び・寂び」「静寂」「自然の色調」を尊ぶ中、九谷焼は正反対の美学を持っています。豪華、華麗、大胆、饒舌。

これは加賀藩の文化と深く関わっています。「加賀百万石」として知られた豊かな藩は、工芸に惜しみなく投資し、職人たちに「最高のものを作れ」という使命を与えました。九谷焼の絢爛な彩りは、この文化的土壌から必然的に生まれたものなのです。

九谷焼は5つの色の組み合わせで華やかに仕上がっています。

  • 緑(りょくゆう) 九谷焼を代表する色。銅を原料とした深みのある緑は、見る角度によって表情が変化します。
  • 赤(べんがら) 酸化鉄を原料とする朱赤。「九谷の赤」と称され、世界のコレクターに珍重される色です。
  • 黄(きゆう) 鉛を使わない現代の黄は、技術的に難しい色です。
  • 紫(し) マンガンを原料とする落ち着いた紫は、他の色を引き締める役割を担います。
  • 紺青(こんじょう) コバルトブルー。五彩の中では最も安定した色で、深い海のような紺色です。

絵付けの技法。上絵付けの芸術

九谷焼は上絵付けを主体とした磁器です。素焼きの磁器に釉薬をかけて一度焼成した後、その上から顔料で絵を描き、さらに低温で焼き付ける。この二度焼きの工程が、鮮やかな発色を生み出します。

絵付けは、高い技術と長い修練を要する仕事です。一流の絵付師は、直径10cmの飯碗の表面に、数十本の細い線で構成された複雑な文様を描きます。筆のコントロール、顔料の濃度管理、乾燥時間の把握。すべてを身体で覚えるまでに、少なくとも10年はかかると言われています。

黒い台に並べた古い九谷の小鉢。窓絵の中に松や花鳥を描き、赤・緑・黄・紺の色面が余白なく塗り埋められている

九谷焼の見分け方と選び方

本物の見分け方

市場には「九谷焼」の名を冠した安価な商品も流通しています。本物の九谷焼を見分けるポイントを押さえておきましょう。

  • 高台を確認する 器の底、高台の内側に作家のサインや窯の印が押されているものは信頼度が高くなります。
  • 絵付けの密度と精緻さ 本物の絵付けは、拡大して見てもニジミがなく、線が均一な細さで引かれています。機械的なプリントではなく、手の微妙なブレや筆さばきの個性が感じられるはずです。
  • 発色の深み 本物の九谷の緑・赤は、見る角度によって色の深みが変わります。表面だけで止まらず、釉薬の層に色が溶け込んでいるような奥行きがあります。
  • 重さと質感 上質な磁器は、手に持ったとき適度な重さがあり、表面は滑らかで冷たい。縁を指で弾くと澄んだ音がします。

この「音叩き」は、陶磁器を指で軽く叩いた音で素材が陶器か磁器かを見分ける方法です。磁器(有田焼・波佐見焼・九谷焼など)は硬く焼き締まっているため、「チン」「キン」といった金属的で高い澄んだ音がします。陶器(備前焼など)は土の粒子が粗く内部に空気が含まれるため、「コンコン」といった低く鈍い音がします。慣れてくると、この音によって器の特徴を見分けられるようになります。

スタイル別の選び方

九谷焼には、さまざまなスタイルがあります。

  • 華やかで存在感のある器がよい方 古九谷スタイルがおすすめです。緑と黄が主体で、大振りのモチーフが器の面を大胆に覆います。野趣に富んだパワフルな存在感があります。
  • 繊細な紋様を鑑賞したい方 赤絵細描がおすすめ。朱赤一色で描かれた繊細な唐草・花鳥文様は、控えめながら見れば見るほど奥が深く、一生鑑賞できます。
  • 現代的なフォルムが好みの方 現代作家の作品を自由に選んでみるのが良いでしょう。伝統の色彩を活かしながら日々進化しており、日常使いしやすく、インテリアとも調和します。

九谷焼を日常に取り入れる

九谷焼は、その華やかさゆえ「飾るもの」と思われがちですが、本来は食器として使われるために作られています。

九谷焼は、盛り付けとのコントラストを出すことに長けています。鮮やかな絵付けの九谷焼には、シンプルな料理を白く盛ると美しい。蒸し豆腐、刺身の薄切り、白いご飯。素材の清潔さと器の華やかさが絶妙なコントラストを生みます。

また、クリスマスディナー、ゲストを迎える晩餐、誕生日のお祝いランチなど、食卓を華やかにしたいときは、九谷焼を一つ使うだけで「ハレの気分」が宿ります。

ギフトとしての九谷焼

九谷焼は、日本の陶磁器の中でも特に「贈り物として喜ばれる」器として知られています。その理由は、見た目のインパクトにあります。包みを開けた瞬間に、誰もが「美しい」と声を上げる。

結婚祝い・引越し祝い・退職祝い・誕生日。どんな節目にも対応できる格調があります。ペアの湯呑みセット、小皿の組み合わせ、花器。用途と相手に合わせて選んでみてください。

Nokazeでは日本の器をギフトとしてお届けするお手伝いをしています。→ For Gift|日本の作家が手がける手仕事をギフトに

白いテーブルに並ぶ九谷焼の小皿と、そこに盛られた胡麻豆腐。赤地に花を散らした皿と、黄地に鶴を描いた色紙文の皿が対になっている

九谷焼の産地を訪れる

石川県南部、JR小松駅周辺が九谷焼の中心地です。

九谷焼美術館(加賀市)では、古九谷から現代作品までを見ることができ、九谷の歴史を一覧できる必訪の場所です。また、吉田屋窯跡(九谷地区)では初期の窯が復元されており、九谷焼の原点に触れられます。あわせて、九谷陶芸村には窯元が集まっており、予約すれば絵付け体験ができる工房も多く、見るだけでなく体験までできる観光地になっています。

色彩の中に宿る、加賀の魂

九谷焼は、単なる「きれいな器」ではありません。350年の歴史の重みと、加賀という豊かな文化土壌が育んだ、日本の陶磁器の中でも最も華やかな器です。

その五彩の輝きは、初めて見る人の目を引き、使い込むほどに愛着が深まり、世代を超えて受け継がれていきます。あなたの食卓に、加賀の色彩を。その一歩を、今日踏み出してみませんか。

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食卓に、加賀の色彩を

Nokazeでは、絵付けの器を作り手の背景とともにご紹介しています。五彩の深みは写真でも伝わります。まずは小皿一枚から、色のある食卓を試してみてください。

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FAQ

なぜ九谷焼はコレクターに重んじられるのですか
色と希少さの両方が理由です。九谷焼は緑・赤・黄・紫・紺青の五彩で器の全面を埋め尽くします。これは侘び寂びを尊ぶ他の産地とは真逆の美意識です。また初期の古九谷はわずか50年ほどで窯が閉ざされたため現存品が極めて少なく、国内外の美術館と個人コレクションに大切に収められています。
九谷焼の五彩とは何ですか
緑・赤・黄・紫・紺青の五つです。緑は九谷を代表する色で、銅から作られる深い緑は見る角度で表情を変えます。赤は酸化鉄から作られる朱色で、「九谷の赤」と呼ばれます。黄は現代の無鉛のものが技術的に最も難しい色です。
九谷焼はどこで作られていますか
石川県南部の加賀市・能美市を中心とした地域です。1655年頃、現在の加賀市九谷地区に窯が開かれたのが始まりです。現在も200以上の窯元と絵付工房が活動しており、日本の陶磁器産地としては大きな規模です。
古九谷とは何ですか
1655年頃から作られた、初期の九谷焼を指します。五彩を用いて地を絵の具で埋め尽くし、草木・鳥・人物などの大胆な文様を描きます。その制作はわずか50年ほどで突然途絶え、なぜ窯が閉ざされたのかは今もはっきりしていません。

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