蛍手とは|光にかざすと浮かぶ、磁器の小さな窓

白磁のそば猪口。淡い青緑に透ける小さな穴が円形に並び、内側にも同じ文様が浮かぶ

蛍手(ほたるで)とは、磁器の素地に小さな穴を彫り抜き、その穴を透明釉で埋めて焼く技法です。焼き上がると、穴のあった場所だけが釉のガラスになります。光にかざすと、そこだけが明るく透ける。その様子を蛍の光に見立てて、蛍手と呼びます。

蛍手と透かし彫りとの違い

蛍手はよく透かし彫りと混同されます。違いは一点だけです。

項目 透かし彫り 蛍手
穴の扱い 開けたまま残す 透明釉で埋める
焼き上がり 向こう側が見える 塞がっているが光は通る
使いみち 香炉、菓子器、灯り 飲食に使える器にもできる

蛍手は、透かし彫りを応用して発展した技法です。穴が釉で塞がるので、水やお茶を入れる器にも使えます。透かし彫りのままでは、液体は入れられません。

蛍手の工程

蛍手ができるまでの工程は4つです。

  • ① 成形して乾かす 轆轤や型で形をつくり、乾かします。生乾きのうちに彫ることもありますが、穴が多い作品では、乾いてからドリル状の道具で開けます。生乾きだと土が動いて、細かい穴を揃えて開けられません。
  • ② 穴を彫る 寸法は0.5mmから2mmほど。これより大きくすると、次の工程で釉が張りません。素地が厚い場合も同じで、彫り跡が大きいと釉で覆いきれずに穴が残ります。
  • ③ 穴を透明釉で埋める ここで粘性の高い、流れにくい釉薬を使います。さらさらした釉では、焼成中に流れ落ちて穴が開いたままになります。
  • ④ 高温で焼く 磁器は1,200〜1,300℃で焼き締めます。この温度で釉がガラス化し、埋めた穴が透ける窓になります。

蛍手が磁器の技法である理由は、素地そのものが光を通すからです。穴を埋めた窓が明るく見えるのは、周囲の素地が薄く白く、ほんのり光を透かすからこそ。土の器では、穴の周りが暗いままになります。素地の違いは陶器と磁器の違いにまとめています。

蛍手が珍しい理由

蛍手は、素材のロスが多く、手間のかかる技法です。

  • 彫るほど素地が弱くなる 穴は素地を貫通しています。数を増やすほど、乾燥や焼成の途中で割れやすくなります。
  • 釉が流れれば穴が残る 流れにくい釉を選んでも、温度や厚みの加減で流れます。ひとつでも埋まらなければ、器としては使えません。
  • 失敗が最後まで分からない 窯から出すまで、穴が埋まったかどうか確認できません。

手間と歩留まりが見合わないため、いまこの技法に挑む作り手は多くありません。店先で蛍手の器に出会ったら、それは珍しいものです。

蛍手はどこから来たのか

蛍手のルーツは日本ではありません。

時代 場所
12世紀 ペルシアの陶器に、同じ発想の作例がある
15世紀以降 中国・明代の磁器で用いられる
17〜18世紀 盛んに作られるようになる
江戸期の日本 備前、有田、平戸、京都などで見られる

日本では、とくに有田をはじめとする肥前の磁器によく見られます。有田焼は日本で最初に磁器を焼いた産地で、薄く白い素地をつくる技術がありました。蛍手が成り立つ条件が、そこに揃っていたことになります。

蛍手を選ぶとき、使うときに見るところ

  • 光にかざす これが唯一の見方です。店内の照明ではなく、窓や明かりに向けてください。穴の並びが揃っているか、埋め残しがないかが、そこで分かります。
  • 指でなぞる 埋めた部分は、釉がわずかに凹んでいることがあります。触ってざらつきや引っかかりがなければ、きれいに埋まっています。
  • 置き場所を考える 透ける良さは、光がないと出ません。食卓なら窓際、飾るなら明かりを背にした位置が向いています。
  • 洗い方は磁器と同じ 穴は塞がっているので、水が入ることはありません。陶器の手入れのような目止めも不要です。

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FAQ

蛍手と透かし彫りはどう違いますか
穴の扱いが違います。透かし彫りは彫った穴をそのまま残すので、向こう側が見えます。蛍手はその穴を透明釉で埋めて焼くため、焼き上がりでは塞がっていて、光だけが通ります。蛍手は透かし彫りを応用して生まれた技法で、穴が塞がるぶん、飲みものを入れる器にもできます。
蛍手の器に水やお茶を入れても漏れませんか
漏れません。彫った穴は焼成中に透明釉がガラス化して完全に塞がります。塞がらなかったものは器として仕上がりません。穴を0.5〜2mmに抑えるのは、これより大きいと釉が張らず、穴が残ってしまうからです。買うときは光にかざして、埋め残しがないか確かめてください。
蛍手の器は食洗機や電子レンジで使えますか
素地は磁器なので、絵付けのないものなら食洗機も電子レンジも使えます。金彩・銀彩が入る器は電子レンジを避けてください。穴は塞がっていて水を吸わないので、目止めも不要です。ただし穴の分だけ素地は薄くなっています。重ねるときに強く当てないほうが安心です。

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