柿右衛門とは|余白を残す、乳白色の磁器と赤絵

柿右衛門は、絵を描かない部分で成り立っている様式です。
白い余白があり、その片隅に赤や緑の花鳥が置かれる。器の面積でいえば、絵は三分の一もありません。にもかかわらず、他のどの絵付けよりも印象に残ります。余白が絵を引き立てるのではなく、余白そのものが構図になっている。ここが柿右衛門の核心です。
濁手(にごしで)という白
柿右衛門を柿右衛門たらしめているのは、絵より先に白です。
この白は濁手と呼ばれます。青みを帯びた一般的な白磁とは違い、やわらかく温かい乳白色をしています。透明感で勝負するのではなく、光をわずかに含んで返す白です。
この地があるから、上に置いた赤が沈まず、緑の発色も魅力的に映ります。絵の色を決めているのは、絵の具ではなく下地の白なのです。
濁手は焼成が難しく、江戸中期にいったん途絶えたと伝えられます。のちに復興され、現在も限られた作り手によって続けられています。
色の構成
柿右衛門で使われる色は限られています。上絵付けの絵の具を、釉の上に置いて低温でもう一度焼きます。
| 色 | 性格 | 使われ方 |
|---|---|---|
| 赤 | 柿の実のような、明るく澄んだ赤 | 花弁、鳥の羽。画面の主役 |
| 緑 | 透明感のある青緑 | 葉、枝 |
| 黄 | くすみのない黄 | 差し色。面積は小さい |
| 青(呉須) | 釉の下に描く藍 | 輪郭、縁取り |
色数を増やさないことが、ポイントです。同じ有田の染錦が藍の上に色と金を重ねて密度を上げるのに対し、柿右衛門は引き算で立たせます。
藍を生む顔料そのものについては呉須に、赤の絵の具については赤絵にまとめています。
何が描かれるか
題材は自然に絞られます。
- 花鳥 枝にとまる鳥と、そばの花。柿右衛門でもっとも多い組み合わせ
- 岩に牡丹 岩の塊と、その上に開く花。上下の重心の置き方が特徴的
- 竹に虎 中国絵画から入った画題。線が少なく、動きで見せる
- 四季の草花 梅、菊、桜。季節を一つだけ選んで置く
どれも画面の端に寄せて描かれます。中央を空けたまま完成させる。西洋の絵画では成立しにくい構図で、これが後にヨーロッパで驚かれた理由のひとつです。
ヨーロッパを動かした様式
柿右衛門は17世紀後半、オランダ東インド会社を通じてヨーロッパへ渡りました。
王侯貴族が競って集め、宮殿の一室を器で埋める「磁器の間」がつくられます。やがて現地の窯が柿右衛門を模倣しはじめました。ドイツのマイセン、イギリスのチェルシーやウースター。ヨーロッパ磁器の初期には、柿右衛門写しが確かな一群として存在します。
日本の器が、他国の様式の出発点になった数少ない例です。この時期の流れは日本陶磁史にまとめています。
見分け方
有田の絵付けは種類が多く、はじめは区別がつきにくいものです。次の順で見ると分かります。
| 見るところ | 柿右衛門 | 染錦・金襴手 |
|---|---|---|
| 余白 | 大きく残す | ほとんど残さない |
| 白の色 | やわらかい乳白(濁手) | 青みのある白磁 |
| 金 | ほぼ使わない | 多く使う |
| 絵の位置 | 端に寄せる | 全面に展開する |
いちばん早いのは余白を見ることです。白が広く空いていて、その白がわずかに温かければ柿右衛門。金が入って画面が埋まっていれば金襴手や染錦の系統です。
暮らしの中で
余白の大きい器は、料理を選びます。
盛る量を減らすほど似合います。刺身を数切れ、和菓子をひとつ、煮物を少量。器の白がそのまま皿の上の余白になり、料理が絵の一部のように収まります。
逆に、器を埋めるほど盛ると絵も余白も見えなくなります。柿右衛門は「たくさん盛らない」ことを前提に設計された器です。
磁器なので目止めは要りません。ただし上絵は釉の上にあるため、金属たわしや研磨剤は避けてください。日々の扱いは和食器の手入れにまとめています。
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白い余白に、色を少しだけ。手描きの絵付けが入った作家ものの器を、産地から直接お届けします。同じ絵柄でも、線の勢いは一枚ずつ違います。
絵付けのうつわを見るFAQ
柿右衛門と染錦・金襴手はどう見分けますか?
濁手(にごしで)とは何ですか?
柿右衛門の器にはどんな料理が合いますか?
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