灰釉とは|草木の灰を調合してかける、高温釉の原点

灰釉(かいゆう/はいぐすり)とは、木や藁などの草木を燃やした灰を、長石や土と調合してつくる釉薬です。器にかけて高温で焼くと、灰に含まれる成分が溶けてガラス質の膜になります。
よく似た言葉に自然釉があります。どちらも灰がガラスになる点は同じですが、自然釉は薪の灰が窯の中で偶然降りかかったもの、灰釉は人が灰を調合して器にかけたものです。灰を「待つ」か、灰を「塗る」か。この一点で、かかり方も、再現性も、焼ける窯もすべて変わります。
灰釉は、日本の施釉陶器の出発点にある釉です。いまも作家の器にいちばん多く使われている釉のひとつで、同じ名前でも作り手ごとに色がまったく違います。
釉薬全体の分類は釉薬の種類にまとめています。この記事は、そのうち灰を主原料とする釉だけを掘り下げます。
灰釉と自然釉の違い
先に、いちばん混同されやすい二つを並べておきます。
| 見るところ | 灰釉 | 自然釉 |
|---|---|---|
| 灰の出どころ | 人が集めて精製した灰 | 窯で燃えた薪の灰 |
| かけ方 | 浸す・流す・刷毛で塗る | 焼成中に自然に降り積もる |
| かかる範囲 | 狙った面の全体 | 灰が降る面だけ。片面のことも多い |
| 焼ける窯 | 薪窯・ガス窯・電気窯 | 薪窯のみ |
| 再現性 | 調合と焼成でかなり近づけられる | 二度と同じにならない |
自然釉は焼き締めの器に窯がかける釉で、穴窯や登り窯で何日も薪を焚かないと生まれません。灰釉は、その現象を人の手で再現できるようにしたものです。だから電気窯でも焼けますし、器の内側まで均一にかけられます。
自然の灰を、人がかけるようになるまで
日本で灰釉の器が本格的に焼かれたのは、現在の愛知県にあった猿投窯(さなげよう)とされています。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 8世紀ごろ | 器を炎の近くに置き、薪の灰がかかりやすいように焼く。自然釉を「狙う」段階 |
| 9世紀初頭ごろ | 焼く前に灰の釉を刷毛で塗る技法が現れ、灰釉陶器の本格的な生産が始まる |
| 9世紀後半 | 猿投窯の灰釉陶器が最盛期を迎える |
| 鎌倉時代以降 | 灰釉と鉄釉の技術が瀬戸へ受け継がれる |
最初は、降ってくる灰を器が受け止めやすい場所に置いていた。やがて、灰を先に塗っておけばいいと気づく。自然釉から灰釉への移り変わりは、偶然を技術に変えていく過程そのものです。
この流れは瀬戸焼に受け継がれ、桃山時代には灰釉を酸化の炎で黄色く焼いた黄瀬戸や、灰釉に銅を加えて緑にした織部が生まれます。白い釉で知られる志野は長石を主にした釉で、灰釉とは系統が別です。
灰を釉にする手間
灰はそのままでは釉になりません。作り手はおおむね次の順で仕立てます。
- 燃やす 薪や藁、剪定した枝などを燃やし、灰を集める。燃え残りの炭は取り除く
- 灰汁を抜く 灰を水に浸けてかき混ぜ、上澄みを捨てる。これを何度も繰り返し、アルカリ分を抜く
- 漉す 細かいふるいに通し、粒をそろえる
- 調合する 乾かした灰に長石や土を合わせ、溶け方と色を決める
灰汁抜きは数週間かかることもあり、作家によっては自分で灰をつくるところから始めます。どの木を、どこで燃やしたか。それが最終的な色に残るので、灰を買わずに自前で用意することにこだわる作り手も少なくありません。
灰の種類で色が変わる
灰の主成分はカルシウムで、これが釉を溶かす役目を担います。そこにわずかに含まれる鉄やケイ酸の量が、木の種類や育った土地で違う。同じ「灰釉」でも、灰が変われば別の釉になるのはこのためです。
| 灰 | 特徴 |
|---|---|
| 木灰(雑木灰) | いろいろな木を混ぜて燃やした灰。灰釉のもっとも基本の材料 |
| 松灰 | 松の薪を燃やした灰。作家が名前に掲げて使い分けることが多い |
| 藁灰 | ケイ酸が多く、溶けきらずに白く濁る。白い釉の材料になる |
| 果樹の灰 | みかんなど、剪定した枝や木を燃やした灰。産地の木を使う例もある |
そしてもう一つ、色を決めるのが窯の炎です。灰に含まれる微量の鉄は、酸素の多い炎で焼くと黄や琥珀色に、酸素を絞った炎で焼くと青や緑に転びます。鉄を多く含む釉を還元で焼き、青緑を極めたものが青磁です。

灰釉の見どころ
灰釉は高温でよく溶け、よく流れる釉です。その性質が、そのまま器の景色になります。
- 流れ 溶けた釉が重力で下へ流れ、筋を描く。縁は薄く、腰は厚くなる
- 釉だまり 見込みの底や彫りの溝に釉が集まり、ガラスのように濃く澄む
- 貫入 冷めるときに釉に細かなひびが入る。使ううちに線が浮かんでくる
- 土の透け 釉の薄いところで下の土の色が見える。土の選び方で印象が変わる
冒頭の写真の器は、淡い水色の釉が土の上をまだらに流れ、釉の溜まったところだけ青が濃くなっています。釉の薄いところでは下の土の粒が透けている。一つの器の中で、厚いところと薄いところが同時に見えるのが灰釉らしさです。
釉のひびについては貫入の記事にまとめています。
Nokazeで扱う灰釉の器
いま Nokaze で扱っている灰釉の器は、土も色もまったく違う二つの系統です。
唐津の土と天然の灰でつくる、松灰釉
神奈川県横須賀市で作陶する木谷畑直美氏は、唐津の土と天然の灰を用いた釉薬にこだわり、自然に生まれる表情を大切にしています。松灰釉のマグカップやぐい呑みは、土の粒が見える肌の上を、淡い青の釉が流れる仕上がりです。陶器なので、使ううちに貫入に色が入り、表情が育っていきます。
木谷畑直美氏の器は木谷畑 直美のコレクションで見られます。

磁器にかける、灰青釉と灰琥珀釉
京都の前田麻美氏は、磁器の素地に、名前に「灰」を冠した灰青釉・灰琥珀釉をかけます。陽刻やイッチンで盛り上げた文様の谷に釉がたまり、彫りの深さがそのまま色の濃淡になる。白い素地の上なので、土ものの灰釉よりも軽やかに見えます。
前田麻美氏の技法は作家記事で紹介しています。器は前田 麻美のコレクションにまとまっています。

その他にもさまざまな作家さまのそれぞれの個性的な灰釉を使った作品を取り扱いしております。
灰釉の器を使う
扱い方は、灰釉そのものより素地が陶器か磁器かで決まります。
- 陶器の灰釉 土が水を吸い、貫入からも染みが入る。使い始めに目止めをすると安心
- 磁器の灰釉 水を吸わないので目止めは要らない。そのまま洗って使える
陶器の灰釉は、貫入に茶やコーヒーの色が少しずつ入り、器の表情が変わっていきます。これを味わいとして楽しむのが経年美化です。長く水に浸けたままにせず、洗ったらよく乾かしてからしまってください。日々の扱いは陶器の手入れにまとめています。
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灰釉の器を見る
どの木の灰を使い、どんな炎で焼いたか。灰釉の色は、作り手の選択がそのまま出ます。流れと釉だまりは写真でも一点ずつ違います。唐津の土に松灰釉をかけた器を、作り手から直接お届けします。
木谷畑 直美の器を見るFAQ
灰釉と自然釉はどう違いますか。
灰釉の器は目止めが必要ですか。
同じ灰釉なのに、器によって色が違うのはなぜですか。
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