色鍋島とは|将軍に献上するためだけに焼かれた磁器

色鍋島(いろなべしま)とは、江戸時代に佐賀藩が藩の窯で焼いた磁器のうち、藍の染付の上に主に赤・黄・緑で絵付けしたものを指します。
ほかの磁器といちばん違うのは、成り立ちです。色鍋島は、売るために作られていません。将軍家への献上、幕府の重臣や諸大名・公家への贈答、そして藩内での使用。渡る相手が最初から決まっていました。
買い手が選ぶ器ではなく、贈る側が「藩の格」を示すための器だった。この一点が、色鍋島のかたち・寸法・文様のすべてを決めています。
大川内山という「秘窯の里」
鍋島が焼かれたのは、現在の佐賀県伊万里市の南部にある大川内山(おおかわちやま)です。三方を切り立った山に囲まれた谷で、出入口が限られています。
佐賀藩はここに窯を移し、技術が外へ流出しないよう厳しく管理しました。職人の出入りを制限し、技法を門外不出とした。のちに「秘窯の里」と呼ばれるのは、この体制によります。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 1650年代 | 有田町で鍋島のやきものが始まる |
| 1660年代 | 大川内山の日峰社下窯で製造が始まる |
| 延宝年間(1673〜1680年)ごろ | 藩窯の組織と制度が確立し、献上品の製作が本格化する |
| 明治3年(1870年) | 藩窯が廃止される |
同じ肥前でも、有田焼が国内外へ売るための産地として育ったのに対し、鍋島は市場から切り離されたところで完成しました。競争にさらされない代わりに、失敗も許されない。そういう場所です。

三つの鍋島
鍋島焼には、大きく三つの系統があります。
| 系統 | 見た目 | つくり |
|---|---|---|
| 色鍋島 | 藍の輪郭に、赤・黄・緑の色 | 染付の上に上絵を重ねて低温でもう一度焼く |
| 鍋島染付 | 藍一色 | 釉の下に呉須で描いて本焼きする |
| 鍋島青磁 | 深い青緑 | 青磁釉を厚くかけて焼く |
藍一色の仕立ては染付、青緑の釉は青磁の記事にまとめています。色鍋島はこの三つのうち、いちばん手数のかかる仕立てです。
赤・黄・緑と、藍の輪郭
色鍋島の色数は多くありません。
まず釉薬の下に、呉須で文様の輪郭を描きます。これが下絵付けです。その上から釉薬をかけて本焼きし、焼き上がった器の表面に、赤・黄・緑の絵の具を置いてもう一度低温で焼く。ここが上絵付けです。
赤の絵の具そのものについては赤絵の記事にまとめています。
色鍋島が金彩をほとんど使わないことは、様式の性格をよく表しています。豪華さで押すのではなく、限られた色を正確に置いて格を出す。同じ有田の系統でも、金を重ねて密度を上げる金襴手とは、進む方向が逆です。
かたちが決まっている
色鍋島がほかの磁器と決定的に違うのは、器のかたちと大きさが規格化されていることです。皿の直径は、おおむね次の四つに定まっています。
| 寸法 | 直径 |
|---|---|
| 1尺 | 約30cm |
| 7寸 | 約21cm |
| 5寸 | 約15cm |
| 3寸 | 約9cm |
そして形は、見込み(皿の内側)が深く、木盃のような姿をしています。これを木盃形と呼びます。ふちが立ち上がるので、盛った料理が中に収まり、文様が皿の底で一つの絵として完結します。
もう一つの見どころが裏側です。色鍋島の高台は高く、そこに文様が描かれています。櫛の歯に似た縞、いわゆる櫛歯文が多く見られます。器の裏に手を入れたときに指が触れる場所まで手が入っている。高台の記事で書いたとおり、目利きが最初に裏を見るのはこのためです。
寸法と形が決まっているということは、同じものを何枚も揃えられるということでもあります。献上品は一枚では意味がなく、五枚・十枚と組になって初めて贈り物になります。
墨はじき|白を「描かない」技法
鍋島に伝わる特徴的な技法が墨はじきです。
やり方はこうです。白く残したい文様を、先に墨で描いておきます。その上から呉須の藍を塗ると、墨の部分だけ絵の具をはじく。焼くと墨は燃えて消え、藍の地の中に白い文様だけが浮かび上がります。
白い線を白い絵の具で描いているのではありません。塗らなかった場所が、そのまま文様になる。発想としては染めものの防染に近く、手間をかけて「描かない」ための技法です。
柿右衛門・染錦との違い
肥前の色絵磁器は種類が多く、最初は見分けがつきにくいものです。次の順で見ると整理できます。
| 見るところ | 色鍋島 | 柿右衛門・染錦 |
|---|---|---|
| つくられた目的 | 献上・贈答。売らない | 売る。輸出もする |
| かたち | 寸法が決まった木盃形 | 器種も大きさも自由 |
| 高台 | 高く、櫛歯文が入る | 通常の高さ、無文が多い |
| 金彩 | ほとんど使わない | 染錦・金襴手は多用する |
| 文様の置き方 | 左右対称・図案的 | 余白に寄せる(柿右衛門) |
いちばん早いのは裏を返すことです。高台が高く、そこに櫛歯の縞が回っていれば鍋島の系統。余白を大きく取った乳白色なら柿右衛門、藍の上に色を敷き詰めていれば染錦です。
藩窯が終わってから
明治3年(1870年)、藩窯は廃止されました。藩という発注元が消えれば、献上品をつくる理由も消えます。色鍋島は、制度と一緒に一度止まりました。
その後、技法を現代の工芸として継いだのが今泉今右衛門家です。大川内山では現在もおよそ三十の窯元が、鍋島の伝統を受け継ぐ器を焼いています。

鍋島の系統を引き継ぐ器を暮らしの中で
色鍋島の系統を引く器は、使い方がはっきりしています。
見込みが深く縁が立つので、汁気のあるものが逃げません。煮物、酢の物、和え物。少量を中央に置くと、周りの文様が額縁のように効きます。
そして数を揃えて使う器です。同じ皿を人数分並べたときにいちばん映えるように設計されています。来客のとき、正月の膳。一枚ずつ違う器を組み合わせる楽しみ方とは、方向が逆にあります。
磁器なので目止めは要りません。ただし上絵は釉の上にあるため、金属たわしや研磨剤は避けてください。日々の扱いは和食器の手入れにまとめています。
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藍の輪郭に、限られた色をきちんと置く。その系譜の上にいる作り手の器を、産地から直接お届けします。手描きなので、同じ文様でも線は一枚ずつ違います。
絵付けのうつわを見るFAQ
色鍋島と有田焼はどう違いますか。
色鍋島はどこを見れば見分けられますか。
墨はじきとはどんな技法ですか。
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